■休暇日
「ボールは友達、怖くない」

「友達を踏みつけ、足蹴りにするなんて……」
大空翼+嘉神亜利子
アリス
今日と明日は試合がないのよね。
クルットゥ
んじゃ、雑談でもするかのぅ〜
如月
サッカーを巡る物語でも何か語りましょうか。
アリス
試合のない日は4日あるから、テーマを「喜怒哀楽」に別けて紹介してみましょうか……今日は「喜」編ね。
ティリス
喜………意外とすっと浮かんでこないな……だって、勝者にとっての「喜び」は、敗者にとっての「悲劇」なんだからね。
フェルグヴェドス
98-99シーズンのチャンピオンズリーグ、その決勝戦……「マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)×バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)」、この試合は、「カンプ・ノウの奇跡(悲劇)」として語り継がれているな。
アリス
試合はバイエルンが前半の早いうちにフリーキックから先制、その後も何度もゴールを脅かしたのよね。マンチェスターユナイテッドも何度もゴールに迫るけど、名手オリバー・カーンに阻まれてどうしてもゴールが奪えない。
クルットゥ
結局、1−0のまま後半ロスタイムに突入……この時点でマンチェスターユナイテッドの会長はスタジアムから帰ってもうたんや。自分のクラブが負けるのを見たくなくて、後半ロスタイムに帰りだす光景は海外サッカーではよく見るしのぅ。
如月
後半ロスタイムにコーナーキックを得たマンチェスター・ユナイテッドは、ゴールキーパーのシュマイケルまで出てきての全員攻撃、そして、ここでベッカムのコーナーキックから、奇跡の同点ゴールを決めるのよ。
アリス
当時最強GKの名はシュマイケルのものだったわよね。
フェルグヴェドス
更に試合再開直後に再びコーナーキックを得たマンチェスター・ユナイテッド。
ティリス
そして、マンチェスターユナイテッドのサポーターが求む結末が訪れた………後半ロスタイムに、2本のコーナーキックを2本とも決めて、奇跡の逆転勝利を収めたんだよ。
アリス
呆然としたまま立ち尽くすバイエルン・ミュンヘンのサポーターがずっとテレビに出ていたのが印象的よね…そして、ピッチを叩いて泣き叫ぶクフォー。逆に奇跡の逆転勝利に沸きあがるマンチェスター・ユナイテッド。
ティリス
「バイエルン・ミュンヘンは89分まで完璧な試合をした。でも、サッカーは90分で行うものなのだ」……当時の実況のこの言葉は記憶に焼きついたね。
アリス
これが、マンチェスター・ユナイテッドの「喜び」の物語……でも、これではバイエルン・ミュンヘンに救いがないから、後日談を語るわね。
フェルグヴェドス
この時、バイエルンの中心選手にして、「闘将」と呼ばれたローター・マテウスは、後半に交代でベンチに退いていた。彼は既に年齢的に全盛期を越え、このシーズンを終えた後はアメリカのメジャーリーグサッカーへの移籍が決まっていた。
アリス
あらゆるタイトルを取ったマテウスが、唯一手にしていなかったのがこの「チャンピオンズリーグ」の優勝……ところが、あと数分、いえ…あと数秒というところまできていながら、そのタイトルは彼の元からこぼれていったのよ。
ティリス
準優勝クラブへの銀メダル……彼は、首にかけられたこの銀メダルをすぐに外したんだよね、これ以後、決勝で負けた選手が銀メダルを拒絶する姿は、よく見られる様になったね。
アリス
決勝で敗れることは、一回戦敗退より何倍も辛い、準優勝・銀メダル、なんて残酷な言葉だ………私はサッカー以外のスポーツはそんなに詳しくないから他のスポーツではどうなのか知らないけど、サッカーはそういう言葉をよく聞くわね。
フェルグヴェドス
結局、マテウスはこの敗退により、アメリカへの移籍を一年延期させ、もう一度バイエルン・ミュンヘンで優勝を目指した……
如月
残念ながら、翌年の優勝はならず、マテウスはバイエルンを去っていったけど、00-01シーズンのチャンピオンズリーグの決勝戦。
アリス
再び決勝の地にたどり着いたバイエルン・ミュンヘン、決勝の相手はヴァレンシア(スペイン)、試合は1−1のままPK戦に突入。このPK戦を制して、バイエルンが優勝したのよ。
フェルグヴェドス
チャンピオンズリーグ優勝クラブは、12月に日本で行われる「TOYOTAカップ(現:クラブワールドカップ)」に参加し、ここで南米チャンピオンのクラブと一発勝負をするのだが、その試合で、クフォーが決勝ゴールを決める……彼がこの歓喜に包まれるには、カンプ・ノウでピッチを叩いたあの日から数年の月日を必要としたわけだ。
ティリス
ヴァレンシアのフォロー後日談は?
アリス
……きりがないでしょ、だから全員が「喜」の物語は難しいのよ……勝者がいればその反対側に必ず敗者がいる世界なんだから。